セロリ案件

世界を征服しようぜ

ハイヒールの彼

私の一番好きな舞台は、一番人にすすめたい舞台は、2016年から変わらない。『キンキーブーツ』だ。それほど、あの舞台は私に強い衝撃を与えた。
主演の彼のハイヒール姿に一目ぼれをして、観劇を決めた。夢にまで見た再演も観た。またこれから再演あるといいね、なんて話していたのがほんの一年前。

ローラの美しさ、強さ、優しさ、たくさんの魅力にあふれた彼女が歌って踊って泣いて笑う姿にたくさんの元気をもらった。最初に観たときから4年経ち、辛いときやキツイときは彼女の姿を思い出していた。何度も何度もCDを聴いて、あの時の劇場に思いを馳せた。

『キンキーブーツ』は、間違いなく私の価値観を変えてくれた。視界が広がったというのか、彩りが鮮やかになったというのか。元々厭世的ではなかったのだけど、それでもこの世界ってこんなに美しいものがあるのかと感じさせてくれた、素敵な舞台だった。

そんな、私の一番大好きな舞台で主役を演じた役者が亡くなった。

才能あふれる彼が、とか、まだまだ若いのに、とか、そんなことではなく、私にとって世界の美しさを再認識させてくれた彼が自ら亡くなったということが、どうしても辛い。
私だけが生きる希望を見出して、そうさせてくれた彼は去ってしまった事実が受け入れがたく、訃報を聞いたときから罪悪感をおぼえてしまうほどにずっと心がザワザワしている。
私は舞台では『キンキーブーツ』でしか彼を見ていない。そんな私が負い目を感じるなんておかしな話なのだが、それほど私の中でこの作品はターニングポイントとなった。

『花の名』という歌に「生きる力を借りたから生きている内に返さなきゃ」という歌詞がある。
あんなに素敵な世界を見せてくれた彼に、私は何も返せなかった。
いち観客な私が何かを返せると思うこと自体、なんともおこがましいけれど、それでもそう考えてしまうほど、私は大きなものを借りたと思う。

あとになると後悔することばかりだけれど、これから少しでもこの後悔をしないでいられるようになりたい。生きる力を借りたたくさんの人に、生きているうちに返していきたい。
そう改めて感じた出来事だった。
これからも変わらずにずっと私の真ん中には『キンキーブーツ』がある。
こんなに素敵なものを私に与えてくれて、本当にありがとう。
愛してるよ、ローラ。